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報告書・論文

記者発表の内容

沖縄北部訓練場ヘリパッド移設選定区域の半分は不適切
情報公開法で入手した米軍、日本政府の環境調査を検討
軍事優先で生物多様性を壊す

2010年10月22日 さい塾 梅林宏道・阿部恵美子

要約
 沖縄北部訓練場における高江ヘリパッドの移設に関わる場所選定の経緯に関する米軍内部文書を米情報公開法で請求していたが、全面不開示の回答に対する異議申し立ての結果、文書の一部が公開された。那覇防衛施設局作成の「北部訓練場ヘリコプター着陸帯移設事業(仮称)環境影響評価図書」(2007年2月。以下、政府評価図書)と公開された資料の比較検討を行った。
 今回の詳細な分析から、政府・米軍が用いた環境評価の手法を用いても、最終決定された移設候補地6カ所の中3カ所はやんばる典型種など希少生物保護の目的に不適格な場所であることが判明した。現在、COP10で生物多様性の重要性が議論されているが、選定結果はその精神に反するものであり、撤回されるべきである。不適切な結論が導かれた原因は、米軍の訓練作戦上の都合が優先された結果であることも判明した。

1 まえおき
(1)「さい塾」は日米の情報公開法を駆使して平和問題に取り組む「塾」である。2008年6月に発足した。現在約30人が、インターネット通信と個別ミーティングを中心に活動。初心者の多くが主宰者のノーハウの蓄積を活かした指導を受けながら活動している。主宰:梅林宏道。
(2)1996年12月のSACO最終報告において、北部訓練場のヘリパッドを返還予定区域から残余の区域に移設する決定がなされたが、移設される区域の反対が強く、13年以上が経過する今も進展の目途が立っていない。重要な反対理由の一つは、貴重な自然を破壊する事業であり、建設後も周辺住民への健康と安全への被害が懸念される事業であるにもかかわらず、場所選定の理由や経過が十分に明らかにされていないことにある。
(3)事業主体は日本政府である。しかし、政府評価図書も明記しているように(例えば添付1)、事業は日米の緊密な協議で行われてきた。そこで、米軍発の関連文書を米国の情報公開法によって請求して、場所選定や環境影響評価の経過を明らかにし、政府評価図書と比較することを試みた。
(4)情報公開の請求は2008年8月21日に「さい塾」茨木哲が始めたが、沖縄海兵隊基地キャンプ・バトラーは日本政府の不開示要請を理由に全面不開示の決定を行った。その決定に至る経過について、2009年6月17日に「さい塾」が記者会見を行なっている。その異常とも言える経過に関する発表内容は下記URLにある。
 http://www.saijuku.jp/site/report/index.html#02
(5)茨木が2009年5月15日に米海軍法務長官宛に異議申し立てを行った。その結果、2009年7月9日、キャンプバトラーの回答は不当であるとの判断が海軍法務長官から下された。その結果、公開手続きが再開された。2010年2月以後は茨木に代わって阿部恵美子が請求者として引き継いだ。

2 異議申し立て後の経緯
◆異議申し立て者:さい塾・茨木哲(2009年5月〜2010年1月)、さい塾・阿部恵美子(2010年2月以降)
◆米軍文書管理者:米海兵隊基地キャンプバトラー(Marine Corps Base, Camp S. D. Butler)
◆元の請求内容
・北部訓練場の6箇所のヘリコプター離着陸帯建設予定地の選定過程および選定理由を示す文書
・北部訓練場に新しく建設されるヘリコプター離着陸帯の建設・移設工事、およびヘリコプター運用に対する環境影響アセスメント文書
◆経過(下線は米軍からの手紙)
2009/05/15 全面非公開に関する異議申し立て(添付2
2009/07/10 異議申し立てを認め、キャンプバトラーに再調査を命じる(添付3
2010/02/09 202ページを公開(一部は非公開)。(入手文書リスト=添付4
2010/03/23 日付、作成者名のない文書について、キャンプバトラーに問い合わせ
2010/03/31 問い合わせへの回答。日付は日本政府に訊けとの内容。
2010/04/07 一部非公開部分について異議申し立て
2010/05/07 異議申し立て却下の回答

3 開示文書の分析
(1)メッシュ調査の説明
 以下の分析に必要なのでまず、候補地選定の過程で用いられたメッシュ調査について説明しておく。詳細は政府評価図書に掲載されている。
 (政府評価図書全文:http://www.saijuku.jp/site/document_japan/index.html
 その手法とは、移設候補地の対象となる地域を180のメッシュ(620m×460m)に分けて(添付5)(入手資料2)、各メッシュの「自然度の総合評価」のランク付けを行うものである。ランク付けは「自然度の総合評価」が高い順にT、U、V、W、Xの5段階に分けた。そして、ランクTとUの区域は、移設対象から除外する方針がとられた。
「自然度の総合評価」は、「動物」と「環境」の2項目を総合して行われている。「動物」の項目は、生息する「やんばる典型種」の出現種数で評価をし、「環境」の項目は、樹齢、河川と高木林の面積割合、地形の複雑さの3要素を考慮して評価する。後者の「環境」の項目は、希少生物の生息に適した環境を評価する意義がある。
【注】やんばる典型種:ノグチゲラヤンバルテナガコガネオキナワトゲネズミヤンバルクイナ、ケナガネズミ、アマミヤシギ、イシカワガエル、キバラヨシノボリ、アオバラヨシノボリの9種(下線はやんばる固有種)
「自然度の総合評価」のランク付けと「動物」「環境」の評価との関連は別表(添付6)(「政府評価図書」より)に示す。表で分かるように、要約すれば「自然度の総合評価」はやんばる典型種をはじめとする希少生物の生息環境の保護を主目的にランク付けしていると言える。しかし、たとえば、「動物」評価が3であっても「環境」評価が1である場合についての判断は記されておらず、評価上生じてくる問題に対処できない不完全な方法論であることが否めない。
 メッシュ調査にその他の要素も勘案して政府は6地区8カ所を選んだ(以下でN番号のもの)。それに後述する過年度調査(場所は米軍が選定)の対象とした5地区7カ所を加えた11地区15カ所の中から米軍は最終的に6カ所を選んだ。それは、@G.1、AH.2、BN-1.2、CN-1.3、DN-4.1、EN-4.2という記号で呼ばれている。地図にその場所を示した(添付7)。
 これら6カ所をメッシュ調査の上に重ねると添付8の図(添付8)のようになる。図において一つの矩形は東西620m×南北460mのメッシュを表し、右下の番号はメッシュ番号(1〜180)であり、その上の時計数字はそのメッシュの「自然度の総合評価」を表す。選ばれたヘリパッドの位置は直径75mの円(実際に計画されている大きさ。ヘリパッド直径45mとその周囲無障害物地帯15mの合計)で表されている。ただし、G.1とG.2は図のいずれの円が選ばれたのか不明なので両方を記入した。

(2)希少生物生息環境を重視すれば2カ所は移設不適格
 上記のように総合評価T、Uを除外する方針には、環境評価の手法上看過できない曖昧性を含んでいる。たとえば、「環境」の3要素の1つである樹齢の項目は、典型種(ノグチゲラやヤンバルテナガコガネなど)の生息に適する大径木の分布の定量化のために、樹齢A(70年以上)、B(60〜69年)、C(50〜59年)など、樹齢分布によってランク付けを判断した。ところが、メッシュ調査が行われたのは2000年4月〜2001年10月であることを勘案すれば、それから10年経過したいま、樹齢においてB評価のメッシュはA評価のメッシュになる。樹齢評価がAとなれば「環境」評価が1となる。
 選ばれている6カ所のうちDN-4.1、EN-4.2の2カ所は、この事実を踏まえれば、「動物」評価が3であるが、環境評価が1となる。このケースは前述したように(添付6)総合評価を与えられていない。しかし、我々は次の見解により移設候補地から除外されるべきと考える。
 「動物」評価3というのは、たまたま調査時点における「やんばる典型種」の出現種数(観測されたか否か)によって評価され、ある意味で偶然性に支配される評価指標である。それを補うために「環境」評価という要素が考慮されている。つまり、「環境」評価は、偶然性に左右されず、継続的な希少生物の生息に適した環境を示す指標である。したがって、「動物」評価が3であっても「環境」評価が1であるこれらの区域は、保護の対象とすべきである。

(3)メッシュ調査の機械的適用で2カ所の不適切な選定
 次に、今回のメッシュ評価手法をそのまま受け入れたとしても、選定が不適切であることを示す。
 添付8の図から分かるように、最終選定カ所の「自然度の総合評価」を整理すると下の表のようになる。

最終選定カ所

環境評価ランク

@G.1

Wにあるが南側のUのメッシュに極めて近い

AH.2

Vにあり、手法上はほぼ妥当

BN-1.2

Wにあり、手法上はほぼ妥当

CN-1.3

Wにあり、北側メッシュに近いがそこもW、故に手法上はほぼ妥当

DN-4.1

Vにあるが西側のUのメッシュに極めて近い

EN-4.2

Vにあり、手法上はほぼ妥当

 表で明らかなように、@G.1とDN-4.1は移設候補地としては除外すべき「総合評価U」の区域の極めて近くに位置しており、環境保護の観点からできるだけ避けるべき区域であると解釈すべきである。
 一方、15カ所の候補地のうちで選ばれなかった残りの9カ所は、G.2、I、J、K、N-2、N-3、N-5.1、N-5.2、N-6という記号で呼ばれている。これら9カ所をメッシュ調査の上に重ねると添付9の図(添付9)のようになる。(図の表記方法は上記の添付8と同じである。)これら9カ所の「自然度の総合評価」を整理すると下の表のようになる。

G.2

Wにあるが南側のUのメッシュに極めて近い

I

Vにあるが西側のUのメッシュに極めて近い

J

Tにあり、候補地としては除外対象

K

Uにあり、候補地としては除外対象

N-2

Vにあり、手法上はほぼ妥当

N-3

Vにあり、手法上はほぼ妥当

N-5.1、N-5.2

Wにあり、手法上はほぼ妥当

N-6

Wにあるが北側のUのメッシュに極めて近い

 この表で明らかなように、実施されている手法を前提としても、上記の@G.1とDN-4.1よりも、この表にあるN-2、N-3、N-5.1、N-5.2の4カ所の方が移設候補地として妥当性が高い。つまり、希少生物保護の観点からは妥当性の低い区域が、最終的な移設候補地として選定されている。そのうえ、このうちN-3、N-5.1、N-5.2の3カ所は選定された6カ所のいずれよりも集落から離れていることも指摘しておきたい。
 したがって、採択されている手法を前提にしても、選定された@G.1とDN-4.1の2カ所よりも、より妥当な地区が3カ所も存在すると結論できる。
 以上の(2)節、(3)節の分析を合計すると、@G.1、DN-4.1、EN-4.2の3カ所は、移設候補地からは排除されるべきであると結論づけられる。

(4)米軍資料と日本政府評価図書の数字の食い違い
 今回米軍から入手した資料と那覇防衛施設局の政府評価図書との間に選定場所数について食い違いがある。以下に食い違いカ所を列記する。
 1.1998年〜2000年調査(過年度調査)で5地区7カ所<米軍文書では5カ所>の環境を調査した。(この調査では、地区及び場所の選定は米軍によるものと思われる。)
 2.180のメッシュ(620m×460m)に分けて環境評価を行い、移設候補地として日本政府が17<米軍文書では20>候補地を提示。米軍と協議して6地区8カ所<米軍文書では10カ所>を選ぶ。
 3.これらと過年度調査の5地区7カ所<米軍文書では5カ所>を合わせて11地区15カ所から、米軍が4地区7カ所を要求。
 4.米軍の譲歩で4地区6カ所を最終決定する。
 日米両文書における数字の食い違いの理由は現在のところ不明である。

4 まとめ
(1)生物多様性を守る基本となる希少生物保護の観点から、移設候補地最終選定カ所6カ所のうち、少なくとも3カ所は不適切である。
 3カ所とは、@G.1、DN-4.1、EN-4.2である。政府、米軍が選定過程で用いた環境評価の手法に基づいてこの結論に至ることが出来る。

(2)このような不適切な選定結果に至った理由は、米軍の訓練など作戦上の都合が、環境上の利益よりも優先された結果である。そのことは、米軍文書(添付10)(入手文書7)や政府評価図書に端的に表れている(添付11)。
 添付10の図は米軍が訓練と訓練上の安全を重視し、日本が建設費用と環境を重視していることを図示している。添付11は、選定されたすべてに米軍の運用上の都合が説明されているが、@G.1にとりわけ米軍の要望が強いことが記されている。

(3)政府、米軍が採択した手法に基づいて上記のような結論を下したが、より適切なヘリパッド建設場所を求めるというのがわれわれの調査趣旨ではない。現行手法に依拠したとしても不適切な場所選定がおこなわれており、計画が進んでいない現状においては計画が撤回されるべきであるというのがわれわれの主張である。
 やんばるの森は希少生物が多く生息し、生物多様性が豊かに残っている数少ない地域である。その保護が優先され、また、住民生活の安全が確保されるためには、この地を米軍基地として使用することを中止することこそ正しい選択であろう。(以上)