米情報公開法による沖縄中部訓練場の火災に関する調査
気象条件による使用弾の規制を恒常的に無視
防衛局への情報制限の実態も明らかに
記者発表の内容
2009年11月5日 さい塾 梅林宏道・新田哲史
§要約
米国情報公開法により入手した120ページに及ぶ米海兵隊内部文書によって、沖縄中部訓練場における原野火災の実態を調査した。文書請求は新田哲史が沖縄海兵隊基地キャンプ・バトラーに対して行った。
調査の結果、沖縄海兵隊が、2000年、射爆場火災防止のために、原野の乾燥状態の目安として3段階の「火災条件」を設定し、訓練に使用できる弾の種類を規制する指針を作成したことが判明した。ところが、入手した詳細な射爆場火災一覧表の02年〜07年分によると、指針を無視した訓練によって火災が多発してきたことが明白となった。2006年(6件)と2007年(20件)の射爆場火災は、すべてもっとも規制の厳しい条件下(火災条件T)で強行された訓練で起こっている。また、表に記載された使用弾の種類等を分析したとき、この期間の火災の少なくとも42%は、明らかな指針違反の訓練から発生している。曳光弾はもっとも火災を起こしやすい弾として知られているが、曳光弾火災は、この期間の火災の約半数を占め、明らかな指針違反火災の約80%を占める。
火災対策にはこのような実態分析が不可欠であるが、海兵隊は日本に対して今回のような実態分析を可能にする情報(火災時の訓練部隊や使用武器の種類など)を知らせない指示を与えていることが、公開文書から明らかになった。これでは、国や自治体が市民や環境を守ることができない。
頻発する射爆場火災の実態は、現在の在日米軍の地位協定が米軍の基地運用上のフリーハンドを与えている現状を改める必要性を示している。
§まえおき
在沖縄米軍の実弾射爆訓練は、現在中部訓練場でのみ行われているが、それに伴う原野火災が頻発している。沖縄県の統計では、最近の10年間に107回、年平均11回発生している。最近では07年20回、08年19回と急増している。射爆場火災はたえず基地外への延焼の危険をはらみ、水源かん養林の消失など環境破壊をもたらす。それ以外の長期的な生態系への影響の懸念もある。また、根本的には豊かな緑の大地が外国軍隊の軍事訓練のために傷め続けられること自体がもっている、人間的、文化的な悪影響を考える必要がある。
そのような意味で、射爆場原野火災の実態調査に取り組み、現状を改善するために役立てたいと考える。
§情報請求と開示
◆請求者:さい塾:新田哲史
◆請求日:08年5月24日、◆異議申し立て日:08年12月3日
◆請求先:米海兵隊基地キャンプ・バトラー(Marine Corps Base, Camp S.D. Butler)
◆請求内容:沖縄海兵隊基地で1990年から2007年に発生した山火事に関するすべての文書。以下のものを含む。@山火事の日付、燃焼時間、規模、被害、消火過程の記録、A山火事の発生頻度がわかる統計、B山火事とその原因に関する調査報告、C山火事防止策
◆文書公開:08年9月30日(10月3日受領)(107枚)
◆異議申し立て追加文書公開:09年3月2日付(3月31日受領)(13枚)
入手した16種類120ページの文書のリストを添付する。(添付1)
§射爆場火災の概観
1997年から2007年までの11年間の射爆場火災を網羅した詳細な一覧表が公開された(入手文書C)。原文をそのまま添付する(添付2)。表には、火災年月日、場所、焼失面積、消火ヘリコプター出動の有無、部隊、兵器などの注、火災条件(後述)、消火バケツ投下量、火災発生時間、風向・風速、鎮火時間など備考、などが記されている。このような、詳細情報が入手されたのは初めてである。
表から射爆場火災の概要を得ることができる。一覧表は沖縄県が作成したものと僅かにずれがあるが、ほとんど一致している。しかし、火災を起こしたときの訓練部隊や使用した弾の種類が明らかになるのは、今回が初めてである。表に登場する訓練部隊は海兵隊と陸軍のグリーンベレーであるが、海兵隊はローテーションで配備される部隊を多く含んでいることが分かる。
弾の種類ごとの火災の件数を表にまとめた(添付3)。兵器の種類が書かれていても、撃たれた弾の種類が判断できないものは「その他」とした。また爆破訓練は弾とは別概念であるので別項目とした。表によると、一般的に言われているように、曳光弾による火災が最も多い。火災全体の3分の1を占める。
一覧表から得られるもっとも重要な情報の一つは、2002年以後の表には火災条件が記されていることである。その意味で、02年以後の表を日本語訳して添付した(添付4)。
§火災条件
「実施上の危機管理――射爆場火災」と題する文書(入手文書D)において、射爆訓練による火災を軽減するために、2000年に海兵隊が気象条件を考慮した「火災条件」(Fire Condition)を設定し、その条件ごとに訓練に使用が許される弾の種類に関する指針を作成していたことが明らかになった。(入手文書には作成年月日が記されていなかったので、海兵隊に照会したところ2000年の文書であると回答があった。)これは、初めて明らかになった重要な事実である。この文書を全訳した(添付5)。
これによると、訓練の日の早朝、射爆場管理官が天気予報と過去24時間の降雨量の情報を得て、その日の「火災条件」を設定する。火災条件は3段階あり、もっとも乾燥した状態が「火災条件T」(規制)、次ぎに乾燥した状態が「火災条件U」(制限)、もっとも乾燥度が低い状態が「火災条件V」(無制限)とされている。条件Vの日から5ミリ以上の降雨の無い日が4日続くと火災条件Uが設定され、Uの日が4日続くと火災条件Tになる。5ミリ以上の降雨があると条件が1段階緩められる。
条件Tでは基本的に訓練は許されないが、例外的な場合にのみ、十分な消火体制のもとに普通弾と榴弾を使用した訓練が許可される。条件Uでは、普通弾、榴弾、発煙弾(条件付き)の訓練が許される。条件Vでは特に制限はない。この指針によると、曳光弾の使用が許されるのは、火災条件Vのときだけである。
前述したように、上記一覧表には2002年から「火災条件」が記入されている。これによって、射爆場火災の一定の実態分析が初めて可能になった。それに基づいて、02年〜07年の6年間における火災条件ごとの火災発生件数を表にした(添付6)。表によると、当然のことであるが、火災条件Tでの火災発生件数が最も多く34件であり、全体の約55%を占める。また、06年、07年においては、火災はすべて火災条件Tのときに発生している。しかし一方では、火災条件U、Vにおいても相当数の火災が発生していることを考えると、条件の設定方法や弾規制のあり方も再検討の余地がある。
条件Tにおける訓練は基本的に制限されていることを考えると、これら全てが指針に反した訓練を強行した結果の火災であるということもできる。それに火災条件Uでは許されない曳光弾による3件の火災を加えると37件(約60%)の火災は、指針に従わなかった結果起こったと言える。
一歩譲って、火災条件Tで起こった火災の中にも指針で例外的に許される場合があるかも知れない。その可能性を排除して、明確に指針違反(火災条件T、Uにおける曳光弾使用など)の場合を取り出した数字が、表の括弧内の数字である。これによると、62件の内26件(42%)が、明確な指針違反の訓練で発生した火災となる。その内の80%が曳光弾に起因する。
指針がまったく空文化している実態が明白である。
弾の種類ごとに指針違反による火災件数を整理したものを添付する(添付7)。これによると、曳光弾が指針違反で訓練され、火災を起こす場合が多いことが分かる。
§日本に情報を出すなと指示
開示された文書の中に、射爆場火災のデータの記載様式が含まれていた。その様式の中に日本の防衛局に対して火災原因の部隊や武器の情報を与えてはならないという注意書きの記載があることが暴露された。
その文書は「2005射爆場火災データシート」(入手文書L)である。この文書は05年4月4日に発生し3日間続いたキャンプ・ハンセン射爆場における大火災の一部始終を様式にしたがって記載したものである。様式の「手順2」において、沖縄防衛施設局への連絡時刻を記載する欄があるが、その注意書きに次のように書かれている。問題部分の原文コピーを添付する。(添付8)
「沖縄防衛局には火災を起こした部隊や武器の型を知らせない。火災が鎮火し、地理情報システム(GIS)が入手できるまでは、沖縄防衛局に火災の大きさの情報を与えない。沖縄防衛局には、電話を掛けてくるな、火災の現状について1時間ごとにこちらから電話する、と伝える。」
上述してきたように、火災の原因究明と防火対策には訓練内容や弾の種類についての情報が重要、不可欠である。日本に対して部隊や武器の型を知らせないという現在の方針は、日本政府や自治体から現状改善の対策を考える基礎的な手段を奪うことになる。
§考察
(1)2000年に防火対策の一環として、射爆訓練で許可される弾の種類について一定の指針を作成したのは、一つの努力として評価できる。しかし、@許可された弾薬でも多くの火災(全体の45%)が発生しており、指針の再評価が必要である。A指針を無視した訓練が常態化している。なかでも曳光弾使用を中心とする明白な指針違反の訓練による火災が、02年〜07年の火災の42%を占める。ここには、「作戦上の必要があれば何をしても許される」という軍事至上主義とも言える姿勢が表れている。米軍に任せることができず、日本政府、自治体の介入が必要である。
(2)にもかかわらず、米軍は日本に火災の原因となった部隊や武器に関する情報を与えないという方針を明記している。現在の在日米軍の地位協定は米軍の作戦・訓練上のフリーハンドを与えている。ここから、火災に関しても「情報を与えないことによって、軍の作戦行動に口出しさせない」という姿勢を貫いていると考えられる。結果として、日本政府や自治体が、射爆場火災から市民や環境を防衛するために独自の対策を考え米軍に要求する手段が奪われている。
(3)地位協定第3条3項「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮を払って行わなければならない」を、実質化するための日本の調査権を明記するような改訂が求められる。
――以上 |